i-032  三井不動産レジデンシャル(施工・三井住友建設、杭工事:旭化成建材)の横浜のマンション不同沈下に関する考察 その3

 

  最も注視しなくてはならない事実は、 姉歯事件も、今回の杭事件も、被害建物の多くが分譲マンションであるということです。上の図は、三井不動産による、今回の「パークシティLaLa横浜」と「日本橋三井タワー」の計画概要を比較したものです。
  私が見る限り、「パークシティLaLa横浜」も「日本橋三井タワー」も、規模・構造形式から見て、不可能な工期ではないということです。従って、一般的に言われている、工期が厳しすぎたことが原因であるという説は、建物全体の工期としてみた場合、真実を表しているとは言えないと思います。
  上の計画概要の比較の中で、最も大きな違いは、発注者三井不動産が、「パークシティLaLa横浜」は完成と同時にあるいは完成前にその所有権を売却し、「日本橋三井タワー」は、完成後も三井不動産が所有し続けているということです。

・ 「パークシティLaLa横浜」 発注者:三井不動産  最終所有者:マンション購入者(不特定多数)

・ 「日本橋三井タワー」   発注者:三井不動産  最終所有者:三井不動産

 これは、何を表しているのかというと、三井不動産は発注者として建設費を支払って建築を発注することは、どちらの建物も同じですが、「日本橋三井タワー」は、三井不動産の決算書類のB/S(貸借対照表)に完成後もずっと記載され続ける所有不動産だということです。「パークシティLaLa横浜」に関しては、完成時の決算書類のP/L(損益計算書)に売上金額と利益金額が記載され、その後は決算書類に登場することはありません。つまり、三井不動産にとって、売却してしまう建物なのか、財産として所有し続ける建物なのかという究極の違いが存在するのです。

 一般のマイホームも「日本橋三井タワー」と同じです。Aさんがマイホームを建設会社に発注し、お金を払って、完成した建物をAさんが所有し使い続けるのです。つまり、Aさんにとっては、ただ安いだけではダメなのです。資産としての価値を長く保持し続けられる建物であることも重要なことなのです。ところがAさんが、すぐに売ってしまおうと思って住宅の建設をする場合はどうなるでしょうか? 多分、発注する建設費をなるべく下げて、高く売って、より多くの利益を上げようとするはずです。これが、一般の建築と分譲マンションの決定的な違いであり、このことが次から次へと問題を発生させる最大の原因と言えると思います。つまり、発注者である三井不動産にとって、「パークシティLaLa横浜」は、いくら利益が上がったのかが最大の関心事ですが、「日本橋三井タワー」は所有し続け賃貸として家賃を稼ぎ続けるための建物としての競争力・資産価値が最大の関心事だということです。これは、建物を発注する時に、「とにかく安く作れ」なのか、「いいものを少しでも安く作れ」なのかという大きな目標の違いとなって現れるのです。つまり、建設費を払う注文する側が、「とにかく安く作れ」という命題のもと建設会社に発注するのか、それとも「いいものを少しでも安く作れ」という命題のもとに発注するのかによって、受注した建設会社の仕様・見積・提案・トラブルの対処法などあらゆる場面で違いが生じてくるのです。この注文側のスタンスは、「暗黙の判断基準」として、設計→見積→施工の一連の建設工程に影響力を行使し続けます。つまり、発注者が発注した建物を売却して、発注金額とマンションの売却金額の差額である利益の追求を旨とする、分譲マンションという建築生産供給システムには、根本的に「とにかく安く作れ」という「暗黙の判断基準」が作動してしてしまうという宿命を背負っているのです。

  建築は、大量生産をすることができません。全ての建築で、建設地、方位、広さ、建築法規、都市計画など、一つとして同じものはありません。更に、お客様である発注者の意向は、絶対的な力を持って建築に反映されるのです。特に、発注先を決定する際の、見積合わせでは、どんなに良い提案をする会社があっても、結局、ただ安いだけの会社に決定されたりすると、受注した建設会社は、とにかく金額を安くすることが発注者の意向であると判断し、そこからは「とにかく安く作れ」という「暗黙の判断基準」が発動され、下請けにも孫請けにもその「暗黙の判断基準」が徹底されることになるのです。現場で、今回のように杭の長さが不足した場合にも、そのまま工事を進めることが発注者の意向に沿うことであると判断されてしまうのです。もちろん、今回のような場合、三井不動産も三井住友建設も、なぜ杭の変更が必要だと旭化成は報告しなかったのか、悪いのは旭化成であると主張しています。しかし、杭の変更が必要であるという報告とともに、変更した場合は追加料金が必要になるという報告を当然のように受容する空気・信頼関係があったのか? 多分、追加費用を請求しても容認されないだろうという「暗黙の判断基準」が作動していたのではないのかと思わざるを得ないのです。

 さらに、今回の杭の件では、分譲マンションに次いで、公共の建物の名前も多数上がっています。公共建築は県や市が発注して、所有者も同じです。「発注者=所有者」のため、問題は発生しにくいはずですが、実は税金を使って作っているので、発注者に自分の建物・財産であるという認識が希薄になりやすいのです。

 大手のデベロッパーだから、大手ゼネコンだから、大手の杭業者だから、安心なのだとは言えない、大手だろうが、中小だろうが、有名だろうが、無名だろうが、その違いが今回のような問題の原因ではないのです。私は、分譲マンションという形式そのものに、問題の根源があるのだと思います。そして、分譲マンションというシステムをこれからも継続するのであれば、三井不動産や三菱地所や住友不動産など日本を代表するデベロッパーが先頭をきって、分譲マンションというシステムを真に安心できるシステムに生まれ変わらせなくてはならないと思います。そして、マンションを購入する側も、名前や価格だけで判断するのではなく、もっともっと本当の資産価値を評価する目利きにならなくてはいけないのではないでしょうか。

 最後に、この「とにかく安く作れ」という「暗黙の判断基準」は、一般の建築でも作動し始めています。建築の専門家ではない建築主が、たくさんの会社から提案と見積書を集め、競わせる。競わせること自体には全く問題はないのですが、建築主も、少しでも安い方がいいに決まっています。このとき、「いいものを少しでも安く作れ」というスタンスが崩れやすくなり、やっぱり安い方にしようかという空気を醸し出すと、競争をしている建設会社は一斉に「とにかく安く作れ」という「暗黙の判断基準」のもと、値引き競争を始めます。建築主は、自分の建築は大丈夫だろう、手を抜くなんてことはしないだろう、だから安い方を選んだってきっと大丈夫だ、と。しかし、すでに、「とにかく安く作れ」という「暗黙の判断基準」を建築主自ら発動してしまっているのです。建築の発注は、本当に難しいのです。プロ中のプロである三井不動産でさえ、今回のような建築を発注し作ってしまうのですから。

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